復活の宵

 ヨーコさんに届ける為に極秘レコーディングした新生"BCG ROCKERS"のCDアルバム「ショットガン・ライダー」が、ちゃんとした商品として上がってくるのは、業者とのかねあいでもう少し時間がかかりそうだったが、

 何よりもまず、出来上がった音源をヨーコさんに届けよう・・・。

 オレは出来たてのサンプル音源を前に、当時オレ達が毎日のように集まっていた知り合いのスタジオの、静かな別室で、1人の時に、ヨーコさんの自宅に電話を入れた。

 聞いた事のない若い女性の声が出た。

「・・・?」、と思ったが続けた。

「○○さんのお宅ですか?」。

「そうですが・・・」。

「Tさんか、ヨーコさんはおられますか?」。

「えっ!?・・・、どちら様ですか?」。

 Tさんとヨーコさんの名前を出した途端に少し受話器の向こうの声のトーンが変わった。

 言ってもわからないだろうとは思ったが、一応「○○といいますが・・・」、と本名を名乗った。 

「ここにはおりませんが・・・」、

 少しこちらを何者なのか怪しむ様子が伺えた。受話器の相手が誰だかわかっていないオレも、やりとりに、???、となりながらも、

「怪しい者じゃないんやけどな〜、早くTさんかヨーコさんとつないでよ〜」という気持ちで、

「あの〜今はどちらに・・・」と訪ねた。 

「ヨーコはもう昨年他界しておりませんが・・・」。

「えっ・・・!?」。

 一層わけがわからなくなった。

 

 そう・・・衝撃の事実は、何の覚悟もさせないままに告げられた。

 目の前が真っ暗になり、以前、Tさんからヨーコさんの癌(がん)が再発したと連絡を受けた時と同様、音が受話器の向こうまで聞こえるんじゃないか・・・と言うほど心臓がバクつき出した。

 あの感触は、これまでに様々な感情を「歌」に「言葉」にしてきたオレでも、うまく言い表わす事ができない・・・。

 言葉を失ってしまったオレに、「どのような関係の方でしょうか?」と訪ねられ、

 ハッ、として混乱したまま、とりあえず「"BCG ROCKERS"というバンドの者ですが・・・」と言いかけると、

「ええーっ!?」と、もの凄く驚かれた後、

「"BCG"のケンジさんですか!?。いつも話は聞いてました。母です。ヨーコは私の母です・・・」と急に涙ぐまれた様子だった。

 この時、初めてヨーコさんに娘さんがいた事を知った。 

「あの・・・どういう事でしょうか・・・?。」

 連絡も無かったあまりの不意打ちに、オレもそう聞くのが精一杯だった。

 聞くところによると、その前の年の12月25日のクリスマスに、自宅で静かに息をひきとられたという。

 その時の話などを娘さんから受話器越しに聞かせてもらいながら、オレはあふれ出る涙を抑えきれなかった。

 受話器を置いた後、1人号泣した・・・。 

 "BCG ROCKERS"の復活は間に合わなかった・・・。

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